医療商品と買い手の立場
- 2013/08/02
- 21:50
我々が住んでいる社会は資本主義の社会だから医療も一つの商品となる。ところが話はそう簡単にはいかない。どう簡単にいかないのか、ご説明しよう。八百屋に行ってトマトを買おうと思った場合、どこどこ産のトマトでサイズがでかいものは、産地を明示していない、表面が汚れてまだ青いところの残ったものよりたいていの場合高額の値段がついている。つまりよさそうなものには高い値が付く。
これはトマトに限らず、自動車、カメラ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど、あらゆる分野で「良いものは高く」売れるような仕組みになっている。だから生産者にはできるだけ上質の商品を提供しようというインセンティブが働くのだ。ところが医療の世界は違う。どの医師が手術をしても報酬額は一定に決められている。虫垂切除術などの場合は脊椎麻酔で行うことが一般的だから、麻酔料金も一律8000円前後で、だれが治療をしても医療機関に支払われる額は一定なのだ。
トマトの例を引き合いに出せば、どんなにエレガントな手術をしても得られる料金が同一であれば、医師がもっと上手に手術できるようになろうというインセンティブはプライドだけだということになってしまう。立派なトマトも虫食いトマトも値段が決まっていたら、手入れなどしない。それと同じことだ。現在のように何かと文句ばかり言われる世の中では、プライドの維持が困難になる。従って、医療の質の低下が深刻な問題になり得るのだ。
昔私の勤めていた病院で、とても手早く手術をやりおおせ、出血時間も少なく、術後合併症もほとんどない外科系の医師がいた。彼の同期で「この男に手術をしてもらいたくない」と思えるのがいて、同じような術式で明瞭な差が出るので気の毒なほどだった。しかし、手際よく手術を終える医師の言い分は違う。同期の医師のほうが自分より報酬が良い、残業手当が付くからと言うのだ。
公的な病院だと、手術件数や手際の良さに対して付加的な報酬の体系などと言うものはない。だから却って収入の減少と言うパンチを食らう。これでは技術向上のモチベーションが維持できない。しかも技術的な問題を残すような手術をすると、術後合併症で緊急の再手術になったりして、それが保険点数に加えられるので、病院としての収入も上がる。緊急手術は夜間に行われることも多く、その場合残業手当に深夜手当まで付く。笑いが止まらないなんてことはないだろうけど。
心臓の手術についても同様だ。天皇陛下は手術後TVで見た限り、明らかにお元気になっていた様子で、思わず唸ってしまった。冠動脈の手術で手術から日を置かずに術前より元気になるなんてそうそう見られるものではない。たいてい心臓操作の間に心臓がヘタるので、術後すぐに術前より元気にはならないのだ。数年のスパンで見れば、手術なしでは心筋梗塞などを起こしていたはずのところを予防できたということは十分あり得るが。
そして術後すぐ元気になるというのが並外れてすぐれた技量なのだが、そういう人はあまり時間もかけないし、簡単に手術を済ませてしまうので、合併症による再手術と言う病院にとっては二重所得のような事態にならない。そろそろ健康保険制度の在り方については考え直した方がいいのではないか。その時には、『切磋琢磨して究極の技術を身に着けてよかった』と医師が思えるような制度にすべきだろう。
妙な医療評価委員会をたくさん作って、そこに官僚が天下りして、その元官僚たちだけがおいしい思いをするというような制度はやめてもらいたい。本邦では様々な仕事に対して、責任を取らずに報酬だけかすめ取っていく人たちが多すぎる。
これはトマトに限らず、自動車、カメラ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど、あらゆる分野で「良いものは高く」売れるような仕組みになっている。だから生産者にはできるだけ上質の商品を提供しようというインセンティブが働くのだ。ところが医療の世界は違う。どの医師が手術をしても報酬額は一定に決められている。虫垂切除術などの場合は脊椎麻酔で行うことが一般的だから、麻酔料金も一律8000円前後で、だれが治療をしても医療機関に支払われる額は一定なのだ。
トマトの例を引き合いに出せば、どんなにエレガントな手術をしても得られる料金が同一であれば、医師がもっと上手に手術できるようになろうというインセンティブはプライドだけだということになってしまう。立派なトマトも虫食いトマトも値段が決まっていたら、手入れなどしない。それと同じことだ。現在のように何かと文句ばかり言われる世の中では、プライドの維持が困難になる。従って、医療の質の低下が深刻な問題になり得るのだ。
昔私の勤めていた病院で、とても手早く手術をやりおおせ、出血時間も少なく、術後合併症もほとんどない外科系の医師がいた。彼の同期で「この男に手術をしてもらいたくない」と思えるのがいて、同じような術式で明瞭な差が出るので気の毒なほどだった。しかし、手際よく手術を終える医師の言い分は違う。同期の医師のほうが自分より報酬が良い、残業手当が付くからと言うのだ。
公的な病院だと、手術件数や手際の良さに対して付加的な報酬の体系などと言うものはない。だから却って収入の減少と言うパンチを食らう。これでは技術向上のモチベーションが維持できない。しかも技術的な問題を残すような手術をすると、術後合併症で緊急の再手術になったりして、それが保険点数に加えられるので、病院としての収入も上がる。緊急手術は夜間に行われることも多く、その場合残業手当に深夜手当まで付く。笑いが止まらないなんてことはないだろうけど。
心臓の手術についても同様だ。天皇陛下は手術後TVで見た限り、明らかにお元気になっていた様子で、思わず唸ってしまった。冠動脈の手術で手術から日を置かずに術前より元気になるなんてそうそう見られるものではない。たいてい心臓操作の間に心臓がヘタるので、術後すぐに術前より元気にはならないのだ。数年のスパンで見れば、手術なしでは心筋梗塞などを起こしていたはずのところを予防できたということは十分あり得るが。
そして術後すぐ元気になるというのが並外れてすぐれた技量なのだが、そういう人はあまり時間もかけないし、簡単に手術を済ませてしまうので、合併症による再手術と言う病院にとっては二重所得のような事態にならない。そろそろ健康保険制度の在り方については考え直した方がいいのではないか。その時には、『切磋琢磨して究極の技術を身に着けてよかった』と医師が思えるような制度にすべきだろう。
妙な医療評価委員会をたくさん作って、そこに官僚が天下りして、その元官僚たちだけがおいしい思いをするというような制度はやめてもらいたい。本邦では様々な仕事に対して、責任を取らずに報酬だけかすめ取っていく人たちが多すぎる。
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