大昔、理学部の学生時代に変わった友人がいた。当時、学内は変わった奴であふれていたので、変人の一人とすべきか。その男は北国の生まれが理由だろうか、12月初めの頃も半袖で過ごしていて、ちっともやせ我慢をしている風には見えなかった。当時、皆懐具合は寂しかったが、親元からの仕送りの日が少しずれていたので、送金を受け取った奴の処に皆が集まるという日々だった。ご多分に漏れずその変わり者もそのような行動パターンを示す《苦学生》の一人だった。どこかで聞き齧った医学用語をもじって再生不良性金欠やら悪性金欠などと自称していた。
定期的に入金があるところからすると、実のところ、あまり再生不良と言う訳ではない。当時お腹がすくと誰かの下宿に行って、そこで何らかの食べ物にありつく。私など、下宿から少し歩くと小さな畑があり、そこから野菜を失敬して時々とっ捕まり、学生証の提示を求められ、「なんや、学生はんか」と言って大目に見てもらっていた。こちらが失敬するのが丸ごと根っこからではなく、葉っぱを二枚とか言うみみっちいやり方が身を助けたのかも。その友人は育ちが良いから(と本人は言っていた)そんな人の道に外れたことを、少なくとも私の目の前ではしなかった。
彼の下宿に遊びに行くと、よくトーストを出してくれた。彼はトーストだけでなく、バゲットなども食べ方に特徴があり、パンくずをこぼさない!!どう注意しても重力の法則に従って家具調の炬燵や、炬燵布団の上にパンくずが落下する。しかし不思議なことに彼の周囲にはその重力が働いていないのだ!そして彼は私たちの食べ方が汚いと宣う。チーズフォンデュに使うような一口大のパンのかけらでも用意しないと、屑を落っことさないで食べることなど不可能。私は今でもパンを食べるときに、彼の事を思い出すが、どう工夫してもパンくずは周囲に飛び散る。
その友人だが、もう一つ変わった習慣があった。排便がひと月に一回だったか4週間に一回だったか、そんなものだ。トイレで30分ほど格闘して石みたいな糞がぽろぽろ出てくるとか言っていたように思う。それって病気じゃないかと思ったのだが、本人の弁によると、仮に毎日排便すると仮定し、ズボンを下ろして便器の上にしゃがんで排便してお尻を拭いて服を整えて手を洗ってトイレから出るまでを1分で済ませることはできない。自分はひと月に30分を要するだけで、時間的に大幅な節約になると、奇妙な論理を展開していた。あまり説得力があるとは思わなかったが…
便秘症は本人に残便感があり、不愉快に思うときに病気ということになる。本人は何しろ毎月一回だけの排便を時間の節約になると言って自慢していたし、排便後に残便感はなさそうだった。別にそのような生活のリズムが不愉快ということもなさそうだったので、便秘症の範疇には入らないのかもしれない。しかし決して健康な生活習慣とは思えない。卒業後連絡が途切れてしまったので、今存命かどうかもわからない。もし大腸癌など下部消化管の疾患で死亡していたとしたら、やはり健康な生活習慣ではなかったことを裏付けるものと言えるだろう。
ついでに医師としての一言。コーヒーを常習的に飲んでいる人は大腸癌にかかりにくい。そんなことが話題になったときに、外科医の友人が「コーヒーには便意を催す作用があるからな」と言った。つまり大腸に蓄積された便の原型は消化管に悪しき影響を及ぼし、癌発生の確率を増やす。だから便秘も大腸癌の発生と関係があるらしい。便秘気味の人は排便の習慣をつけるよう、規則正しい生活を送るように努めた方がよい。そして決まった排便時刻でなくても便意を感じたらトイレに行こう。便が長いこと消化管にとどまると水分が吸収されて固くなり、排便が困難になるからだ。
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