少し前にけがをした子供にそのけがの治療をした時、少し前に三種混合か何かのワクチンを注射したのだけど大丈夫だろうかといった質問を受けた。その時25年ほど前に大学病院で経験したことを思い出した。大学病院の麻酔科で当直中のこと、緊急手術の麻酔をかけることになった。術前の説明と患者の状態を知るための面談の時に、患者の母親から同じ質問を受けたのだ。遊んでいるときにけがをして、緊急手術を強いられたケースだった。2,3日前にワクチンの接種を受けていたら、当然そのことが心配になるだろう。ご夫婦が心配顔で私の説明を聞き入っていた。
私がその時にした説明は、免疫というのが人体を国家にたとえればその警察組織みたいなもので、ワクチンの接種はいうなれば全国の警察組織に警戒せよという命令を伝えることだ、というもの。そのあともいくつかの質疑に答えて納得してもらったのだが、説明が終わった時点で手術の担当医から、患者の父親が当院の免疫内科の先生だと聞いた。それならもっと早く言えよと言いたかった。なんとも底意地の悪い対応ではないか。やや顔を赤らめていると、その免疫内科の先生から「なるほど、面白いたとえ話で、とても参考になりました」などと言われてしまった。
しかも、それからひと月ほどたった後、大学病院の助手会の会長(彼も免疫内科の専門家だった)から、先日自分の後輩のお子さんが先生の世話になったとか聞いた。その時の免疫の話をとても面白がっていた。おおむね正しかったし、患者への説明の参考にさせてもらおうといっていた。などと聞かされた。いつまでも祟るものだ。その時の手術担当医の顔が浮かんできた。全く底意地の悪い奴だ。しかし、相手は女性だから罵ったり難詰したりするようなことはしない。私は女性にとても優しいのだ。私が手を挙げた女性と言えば自分の娘だけ。しかもおいたが過ぎた時にお尻を平手でたたくというもの。
さらに昔のことも思い出した。私がある山域でパトロールをしながら暮らしていた時のこと、尾根筋でご老人にあって、世間話などした。話好きの方で、私はまだ20代の前半、相手は初老と言ったところだ。その方を相手に、この山域の尾根が南北に延びていること。冬季は東側に雪庇が張り出すので、雪解けの時期にその雪庇が東に落ちる。すると尾根の東側のほうが削れて、一般的には東側が険しい地形になってくるはずなのだが、ここは逆に尾根の西側が険しい。その理由は云々といった知ったかぶりを始めた。全くよせばいいのに、私はそのような性格で、すぐにそんな自慢話を始めてしまう。
ところが、その相手の方が、実は名古屋大だったか東大だったかの大学院生を連れて入山していた教授で、その地域の特徴的な地形を見せて研究させようというのだったのだ。冷や汗三斗とはこのことで、恥ずかしかったのなんのって、表現のしようがない(こういった場合には《筆舌に尽くしがたい》とは言わないほうがいいだろう)程のものだった。この場合も、先にあげた場合も相手がその話題に関しては私よりも深いところまで理解している専門家だということを、私がしゃべる前にはわかってなかったというのが共通している。釈迦に説法はもうごめんだが、またやらかしてしまいそうだ。
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